【 Story】
1919年、猛暑。第一次世界大戦後の平和が訪れたばかりのフランスの田舎町。
大戦の英雄となったはずのジャック・モルラックは、人気のない留置所に収監され、頑なに黙秘を続けている。
この男を軍法会議にかけるか否かを決めるため、パリからやって来たエリート軍判事のランティエ少佐は、留置所の外で吠え続ける一匹の犬に関心を寄せる。
酷暑に倒れても留置所から離れようとしないのは、飼い主への忠誠心からなのか。
モルラックは判事の問いかけに、徐々に心を許し事実を語り始めるが、理想高き職業軍人ランティエの思いも変化していく。ランティエ少佐は、ジャックと向き合うことで、自らもこの戦争を終わらせたいと願っている。
そして、ジャックを調べるうちに、学識豊かな恋人ヴァランティーヌの存在が浮かびあがり、、、
果たして、真実を解き明かし、傷ついた人々の心を溶かすことができるのか。
本作の重要な存在である「犬」。言葉の交わせない、名もなき犬が、何を語っているのだろう。
映画の冒頭、黒い大型犬は、太く響く声で昼夜ずっと吠え続けます。町の住人たちから文句を言われないのか、と真っ先に心配をしてしまいましたが、それは見当はずれ。町の人々は、収監された帰還兵士を気の毒に思い、主人を待つ犬にも好感を抱いているのです。
終戦直後の田舎町、人々の思いも込めて、名もなき犬は吠え続けるのです。そして、私たちは「人間であること」と「動物の本能」の両方を考えることになるでしょう。
「Le Collier Rouge(赤い首輪)」原作者ジャン=クリストフ・リュファンのインタビューによると、第一世界大戦では多くの動物、特に犬が巻き込まれていたという事実があり、ほとんど知られていないことだそうで、これには驚きました。
塹壕には何十万頭もの犬がいて、地雷処理や特殊作戦に関わったほか、多くは、飼い主が動員された際についてきた犬だったそうです。つまり飼い犬、家族です!劇中、飼い主とともに前線で戦う犬たちの姿は、とても勇壮に描かれていました。戦中馬が駆り出される姿は当たり前のように見てきたのですが、目線を落として犬たちの姿を見ることで、改めて戦争のもたらす犠牲を考えさせられます。
戦地に向かう列車に乗り込む兵士たち。そのあとを追ってきた愛犬を見つけたジャック・モルラックが、動き始めた列車に迎え入れる場面は美しい場面です。頼れる、賢い、大切な相棒となる愛犬ですが、戦いに同行させるのですからその覚悟は想像を越えています。
さて、名もなき忠犬を演じたのは、フランス原産・ドーベルマンの原種犬「ボースロン」のイェーガー君(2014年2月15日生まれ、約50kg)。この犬種は、顔、頭、体格が良い美しいと言われている犬種で、2016年に、フランス国内で「一番美しいボースロン」に選ばれたそう。撮影では、一部父犬カルマが登場したそうですが、ほとんどイェーガー君一匹で乗り切ったそうです。
2ヶ月半にわたる撮影期間の長さはもちろん、武器の音や、兵士たちの叫び声、待ち時間など、ストレスも多かったでしょうに、声と、瞳の優しさがスクリーンでも光っていました。ぜひ、イェーガー君の名演技と美声にも注目してくださいね。(tomon)
『再会の夏』
12月13日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国公開
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配給:コムストック・グループ
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© ICE3 – KJB PRODUCTION – APOLLO FILMS – FRANCE 3 CINEMA – UMEDIA
監督・脚本:ジャン・ベッケル『画家と庭師とカンパーニュ』『クリクリのいた夏』『殺意の夏』
撮影:イヴ・アンジェロ『インド夜想曲』『めぐり逢う朝』
主演:フランソワ・クリュゼ 『最強のふたり』、ニコラ・デュヴォシェル『ダリダ〜あまい囁き〜』
公式HP saikai-natsu.com