バースデーワンダーランド

 「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」の原恵一監督の最新作は、少女アカネの不思議な冒険を描くアニメーション映画『バースデー・ワンダーランド』です。

 自分に自信がなく、学校生活も憂鬱に過ごしているアカネ。誕生日の前日、突如現れたのは、謎の大錬金術師と、その弟子巻き毛の小人ピポ。「私たちの世界を救って欲しいのです!」いきなりの申し出に戸惑うアカネたちが、強引に連れ出されたのは「幸せ色のワンダーランド」でした。アカネたちとそっくりな人達が暮らすその世界は、「色」が失われる危機に瀕しているという。ここから、自由奔放な叔母のチィとともに、アカネの冒険が始まります。

 さて、幸せ色のワンダーランドにはたくさんの生き物が登場します! ワンダーランドの入り口から、巨大なピンク色の鳥や、毛量が半端ない羊たちの群れが登場します。まん丸な体で大移動している羊たちの笑顔は、何度見ても癒されます。まあるい羊軍団と、ケイトウの花畑の色彩が鮮やかです。
 そして。アカネの冒険にはたくさんのネコが登場します。
 アカネの飼いネコちゃんは、普段何をされてもおとなしい子ですが、ワンダーランドは違います。随分と口が達者なネコたちが待っています!。外部から、サカサトンガリの町に入る人間は、【ネコの番所】にて厳しい?入国審査を受けなければなりません。
 アカネはクリアできるでしょうか。ネコちゃんの本音が炸裂します。

 編み物を大切に紡ぐ村の人たちの笑顔、季節を感じ便利なものを欲しない生活は、私たち現代人へのメッセージも紡がれています。他にも、私たちの日常とリンクする仕掛けがたくさんあって、一度では見尽くせないかも。リピートしたくなりますよ。アカネの声を演じたのは、松岡茉優さん。アカネが少しずつ変化していくのと並行して、アカネが松岡茉優さんそのものに見えてくる、ということは、キャラクターの方がどんどん彼女に歩み寄って行ったのでしょうか。そして、登場シーンからちょっと上から目線のキャラクターが際立つ大錬金術師、ヒポクラテスを演じたのは、名優・市村正親さん。まさか、途中であんな、あんな姿になってしまうとは! 果たして? 大冒険にユーモアのエッセンスと、家族の大黒柱のような存在感で、引きつけます。

 私が大好きな原監督作品の一つが、2015年の「百日紅〜Miss HOKUSAI〜」。葛飾北斎と浮世絵師たちの世界を描いた作品でした。杉浦日向子さん作の漫画『百日紅』が、美しくダイナミックに描かれ、主人公・お栄に惹かれました。雪の名シーンは印象的で忘れられません。「浮世絵」を現代化してしまう創意に富んだアニメーションは、まさに原ワールドでした。どんなテーマも、掘り下げて、自由に広げていく原監督は、今回、誰もが抱える心の声、「自分なんてできっこない」を払拭させてくれます。アカネ世代も大人たちも、人生をシアワセ色に変えられる、そんな作品かもしれません。(tomon)

『バースデー・ワンダーランド』
4月26日(金)より、全国ロードショー
©柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会
配給:ワーナー・ブラザース映画