レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが初共演。クエンティン・タランティーノ監督最新作…と来ればそれだけでもう、取り敢えず観ておかなければという気にさせられますよね。その一方で、シャロン・テートという名前の響きは、長年、惨劇の主人公とイコールで結び付けられていて、そこにタランティーノのバイオレンスが加わったらどうなってしまうのか…と、前知識なしの状態では不安になるところ。でも、ここでは、50年前のあの事件を直接的に再現するようなことはしていません。確かに、むごたらしい暴力表現はあるものの、照り付ける太陽の下、あっけらかんとしていて、煌びやかだけどどこか素朴な、万人が憧れた時代のハリウッドが舞台。そこで繰り広げられる、大スター2人によるバディものコメディという色合いが強いです。なにより、無類の映画おたくである監督の無邪気さが全編にほとばしり、残虐さの中にも笑いが生まれてしまう、タランティーノ節炸裂といった作品です。
時代の転換期にあった60年代終わりのハリウッドで、TVシリーズで広く顔が知られていながらも、自分が過去の人になりつつあるという焦燥感に常に駆られている俳優のリック。そして、彼のスタントマン兼付き人として、ひなたに出ることがなくてもクサることもなく、自分の生活にそこそこ満足していて、苛立つリックを気遣うおおらかなクリフ。世渡り下手で憎めない2人は、お互いの足りないところを補いながら、日々仲良く奮闘していました。そんな中、『ローズマリーの赤ちゃん』のヒットで時の人となっていたロマン・ポランスキー監督と妻で新進女優のシャロン・テートがリックの家の隣に引っ越してきます。駐車場で一瞬見かけただけでも、リックはこのヨーロッパ出身の気鋭の監督を強く意識。そして時代を一変させるあの凄惨な事件が、リックとクリフのすぐそばまで近づいていました。
日本での公開に先駆けて、タランティーノ監督と主演の1人、レオナルド・ディカプリオが来日。監督は、この作品の時代背景を「カウンターカルチャーの変化が生まれた時期。街も業界も。シャロン・テート事件に至るまでの時間軸にすれば歴史的な部分も掘り下げられると思った」と説明し、本作の妙味の1つである、実在の人物と架空のキャラクターの組み合わせは、自身がローティーンの頃に読んだE・L・ドクロトウの小説『ラグタイム』に着想を得たと言います。所作が本物そっくりのブルース・リーも登場する数々の劇中劇を使って、監督は多岐に渡るジャンルの映像表現をやりたい放題。カメラの後ろではしゃぐ姿が目に浮かぶようです。
ディカプー、もとい、レオとブラピという当代きっての2大スターの共演を実現させたことについて監督は「世紀のクーデター」と表現しています。その上で、俳優とスタントマンという関係にある2人を演じさせるため、「どんなに内面がキャラクターとして違っても、外見の部分でどこか近しいものがなければいけないと思った。同じ衣装を着れば近いルックスになるようなことも必要だった」と話していました。
リック役のレオナルド・ディカプリオは会見の中で、「ある意味、この映画というのは、この業界、ハリウッドという場所のセレブレーションだと思う」と話しました。当時6、7歳のクエンティン少年がその目と耳で体験した1969年のハリウッドの街並みを銀幕に蘇らせるべく、撮影はお手軽なCGは一切使わず、実際のハリウッドの大通りや高速道路を封鎖して、車社会のLA住民の足を奪い、顰蹙を買いながら行われたそう。当時の車を何千台も用意し、沿道に建ち並んでいた映画館も再現。細部にまでこだわりが見られます。また、監督によれば、この映画には、失うまで分からない、ものの大切さを訴えているという側面もあり、平和できらびやかなハリウッドは、今のアメリカ社会が失っている輝きをも象徴しているのだそうです。
さて、当DOG BLESS YOUとしては着目せざるを得ないのが、ブラッド・ピット演じるクリフの愛犬、ブランディー。ブラピとの息もぴったりで、謳い文句通り驚愕の「ラスト13分」でも大活躍。クリフの命令にどこまでも忠実な、いい子を貫きます。伝えられるところでは、このブランディーを演じたのは3頭のピットブル。名前はサユリ、サーベラス、サイレン。その演技力(!)で、カンヌ映画祭のパルム・ドッグ賞を受賞。監督が代理で赤いレザーのカラーを受け取りました。一方で、一足先に公開になった本国アメリカの愛犬家の間では、ブランディーのエサ用ボウルがいつも汚れていることや、彼女を家に置いて留守にしている時間が長いことから、クリフはあまりいい飼い主ではないとの批判も聞かれているとか。
主演2人以外のキャストにも触れておきましょう。シャロン・テートに扮するのは、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でトップ女優の仲間入りを果たしたオーストラリア出身のマーゴット・ロビー。事件を連想させる以外ではほとんど知られていないシャロンを、カラフルな服で街を闊歩する三次元の存在として見せてくれています。他にもアル・パチーノ、ブルース・ダーン、カート・ラッセルら大御所に、今年急逝した『ビバリーヒルズ高校白書』のルーク・ペリー、名子役として鳴らしたダコタ・ファニング、そして、母であるアンディ・マクダウェルの面影もどことなく見え隠れするマーガレット・クワリーなど、話題性あるキャストが数多く揃えられました。
ハイパーアクティヴな作風で知られるクエンティン・タランティーノ監督ですが、本作ではこれまでの作品を上回るほどの熱量で観客にグイグイ迫ってきます。業界の先人達、そして古き良き時代の映画の都に対する監督のオマージュに溢れた作品です。(佐武加寿子)
2019年/2時間41分/PG12/アメリカ
原題:Once Upon a Time in Hollywood
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
公式HP http://www.onceinhollywood.jp/
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