トルコは猫の多い国とは知っていましたが、野犬の捕獲・殺処分が禁止とは知りませんでした。そのおかげか日本に比べて野犬の数は非常に多く、どこにでもいます。街中にも、路上にも、そしてスラムにも。トルコという国をそんな野犬の目線で見たのがこの映画です。捕まることもなく、殺されることもないけれども、保護されるわけでもない(タグがついているのもいるので、本当の野良とうわけではないようです)彼ら・彼女らは、人間社会という仕組みの中で生きていかねばなりません。そのため、昔の日本で散見されていたような野良犬のような攻撃性はなく、人との距離がより近い存在のようです。どんな状況・環境にあっても人間の隣にいます。独裁政権、女性人権の抑圧、貧困、難民etc.人間社会が様々な問題を抱えていても彼ら・彼女らは自由です。そして不自由です。犬の目線を借りて、現在のトルコという国を俯瞰的に見たドキュメンタリーと捉えることもできますが、そこまで考える必要はないのかもしれません。だって、トルコで犬は自由に生きているんですから。作中にたびたび出てくるディオゲネスは、ソクラテスの孫弟子でキュニコス学派(犬儒学派)学者。犬のような生活を送り、「犬のディオゲネス」と言われた人物ですが、その言葉は、見る人にどう受け止められるんでしょう。
ちなみに、野犬の捕獲・殺処分を禁止した2004年制定の「動物愛護法 (動物保護法)」は、昨年改正法案を可決し「動物の権利法 (Animal Rights Law)」という名前になったそうです。動物を遺棄すれば罰金1万リラ。虐待したり殺したりしたら実刑で犯罪歴がつきます。一部地域で人気の闘犬、闘鶏が禁止になったり、ペット販売はオンラインのみで、飼い主が決まるまで自由な環境下で飼育しなければならないなど、動物の権利が強化されたそうです。なんとなく綱吉の「生類憐みの令」との類似性を感じませんか?。動物の権利について日本は遅れているのか早すぎたのか・・・。
話を戻して、この映画の最後の部分、連れ去られた後、警察に連れていかれたカルタル(サリ)はどうなったのでしょう?。ハキムたちの元に戻されたんでしょうか?。結局、最後までトルコでの犬の所有権についての考え方がわかりませんでした。
この映画が気になったら、トルコの法律や、我が国の法律を調べながら、愛犬の目線も考えてみてはどうでしょう?
『ストレイ 犬が見た世界』
監督:エリザベス・ロー
出演:ゼイティン、ナザール、カルタル(犬たち)ほか
2020年/アメリカ / トルコ語・英語 / 72分 / ビスタ / カラー / PG-12
日本語字幕:岩辺いずみ
原題:STRAY
配給:トランスフォーマー
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/stray/
2022月3月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開