存在のない子供たち

 主人公のゼインくんは笑いません。様々な表情で、作品の全てを引っ張っていきます。12歳、まだ華奢な身体にも関わらず家庭では1日働かされ、瞳の奥に常に無言の怒りと正義感をたたえています。そして、大切な妹の身に起きた事態に、絶望感でいっぱいの悲しい瞳を見せます。「なぜこんな世の中になっているのか」と問いかけながら作品と向き合うことになり、彼が過酷な現実に直面するたびに胸が痛みます。

【STORY】
 わずか12歳で、裁判を起こしたゼイン。訴えた相手は、自分の両親だ。裁判長から、「何の罪で?」と聞かれたゼインは、大きな瞳でまっすぐ前を見つめて、「僕を産んだこと」と答えた。中東の貧民窟に生まれたゼインは、両親が出生届を出さなかったために、自分の誕生日も知らないし、法的には社会に存在すらしていない。学校へ通うこともなく、妹たちと路上で物を売るなど、両親に働かされていた。ある日、大切な妹が強制結婚させられ、怒りと悲しみから家を出たゼインを待っていたのは、さらに過酷な“現実”だった──。

 主人公の少年を演じたのは、ゼイン・アル=ラフィーア君。本名ゼインがそのまま役名となっています。時々見せる子供らしさが貴重なものに思えるほどです。自分の気持ちを聞いてくれる相手などどこにもいない、そんな絶望的な社会で生きているゼインが、「テレビ」に自分の気持ちを伝えたいという行動は驚くほど自然で、国や地域が違えど共感する人は多いのではないでしょうか。そして、この映画の驚きはもう一つ!ゼインくんの家族、バディ!となる「赤ちゃん」です。ママのおっぱいから離れられない赤ちゃんですが、ある日、突然母親がいなくなってしまいます。ミルクはない、オムツも無い、泣き止まない。12歳のゼインくんが混乱する中、なんと、徐々にゼインくんから離れなくなっていく・・・。これは演技でなく本物の愛情表現です。ヨナス役の赤ちゃん、トレジャーちゃんは撮影当時1歳。幼い二人が、過酷な日々をどう戦っていくのかぜひご覧ください。

 この映画の結末が、スクリーンの中だけでなく現実の広がりを見せることを願わずには入られません。ゼインくんと赤ちゃんの闘いを見守ってください。(tomon)

2018/レバノン、フランス/カラー/アラビア語/125分/シネマスコープ/5.1ch/字幕翻訳:高部義之
(C)2018MoozFilms  PG12
配給:キノフィルムズ/木下グループ
7月20日(土)よりシネスイッチ銀座他全国ロードショー